一般的な抗菌・抗ウイルス剤の種類と作用機作(推定)について

目次

  1. 抗菌と抗ウイルスの定義
  2. 細菌とウイルスの比較
  3. 主な抗菌・抗ウィルス剤の種類とその作用機作(推定)
    1. アルコール系剤
    2. フェノール系剤
    3. ピリジン系剤
    4. 塩素系剤
    5. カチオン系剤
    6. ポリフェノール系剤
    7. 金属系剤
    8. 酸化物系剤
  4. 参考文献

1.抗菌と抗ウィルスの定義

一般に、微生物制御に広く用いられる用語として、殺菌・除菌・滅菌・静菌・抗菌が使われるが、その定義はそれぞれ、「殺菌」は“細菌を死滅”させること、「滅菌」はある環境中の微生物を完全に殺滅させること、「静菌」は微生物の増殖を阻害し,生きた細胞が増えない状態を示し、「除菌」とはある特定の環境から微生物細胞を「除去する」あるいは「少なくする」ことを意味する。「抗菌」は、,「微生物細胞の増殖を抑制する」というもっとも広義に使われる言葉であり、殺菌・除菌・滅菌・静(制) 菌も増殖阻害する状態、すなわち「抗菌」に含まれると認識されている1)

図1.抗菌処理(薬剤添加)有無での細菌の増殖過程の概念図

ウィルス制御に用いられる用語は、現状、微生物制御ほどのバリエーションはなく、抗ウィルスが用いられることが多い。「抗ウィルス」も、「抗菌」と同様に、「ウィルスの増殖を抑制する」という広義に用いることができる用語と捉えてよいのではないかと考える。

2.細菌・ウィルスの比較

微生物とは、一般に、ヒトの肉眼では判別することができない微小な生命体のことを指し、細菌、真菌(カビ、酵母)、ウィルス(※注)、微細藻類、原生動物などが含まれる。
(※注:ウィルスは、自己複製ができず代謝を宿主に依存するため、生物学的な分類では生物に含まれないが、ここでは、生態系を構成する一員としてウィルスも微生物の仲間としている。)。図1に、細菌・ウィルスの比較図に示す。

細菌は、0.5~1.5μmサイズの単細胞生物であり、細胞壁、細胞膜、細胞基質、核酸等から構成され、2分裂によって増殖する。一方、ウィルスは、約10-300nmと非常に小さく、主にタンパク質、外膜と核酸で構成されている。これは、他の微生物とは大きく異なり,細胞壁,細胞膜,細胞質,核等の構造を持たない。ウィルスは、自分自身で増殖することはできず、宿主細胞に感染後、細胞内で増殖するという特徴を有しており、これが生物と無生物の中間に位置するものであると言われる所以である。

表1.細菌・ウィルスの比較

細菌 ウィルス
サイズ 0.5~1.5μm 10~300nm
構成 単細胞
・細胞壁、細胞膜、細胞基質、核酸
タンパク質と核酸で構成
(外膜を有するものあり)
増殖 2分裂 宿主細胞に感染後、細胞内で増殖
遺伝子(核酸) DNA/RNA両方 DNA or RNA
模式図 (例)黄色ブドウ球菌

エンベロープウィルス
(例)コロナウィルス
ノンエンベロープウィルス
(例)ノロウィルス

ウィルスの構造は、大きく分けて2つのタイプ、エンベロープ型、ノンエンベローブ型に分別される。エンベロープ型は、核酸の周りにカプシドと呼ばれるたんぱく質で覆われ、さらに、その外側にエンベロープと呼ばれる脂質膜で覆われた構造を取り、その脂質膜に、分子認識の機能を持つスパイクタンパク質が埋め込まれており、それを利用して、喉や気管の上皮細胞内に入り込む。エンベロープ型には、インフルエンザウィルス、コロナウィルス、はしかウィルスがあり、2020年になって世界的な流行(パンデミック)を引き起こしている新型コロナウィルスもこちらのタイプに属する。

一方、エンベロープをもたずに、カプシドが最も外側に位置するノンエンベロープ型は、脂質膜は持たず、核酸とカプシドからなり、代表例としては、ノロウィルス、ロタウィルス、アデノウィルスなどが挙げられる。ノンエンベロープ型は、アルコールや石鹼では不活化できない。

3.主な抗菌・抗ウィルス剤の種類とその作用機作(推定)

抗菌・抗ウィルス性を有する主な化合物を表2に示す2)。一般に、抗菌・抗ウィルス効果が確認されている化合物は、有機系であれば、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、チモールなどのフェノール系化合物、ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオンなどのピリジン系化合物、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系化合物、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ポリヘキサメチレンビグアナイドなどの第4級アンモニウム塩系化合物、エピガロカテキンガレート、タンニンなどのポリフェノール系化合物が挙げられる。一方、無機系の場合、Ag、CuIなどの金属、および金属化合物、TiO2、ZnOなどの光触媒酸化物などである。以下、各剤の抗菌・抗ウィルスに関する作用機作(推定)について詳述する。

3.1 アルコール系剤2)

アルコール系剤としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。特に、エタノールは、消毒用エタノールとして、医療用、一般雑貨品含め広く使用されている。エタノールは、水と混合して使用され、エタノール濃度40~80%で殺菌性を示し、約70w/w%で最も高い効果を示す。

アルコール系剤の抗菌・抗ウィルス作用機作は、主に、細胞膜の破壊、蛋白質の変性、溶菌作用(溶解浸透)により抗菌効果を生じさせると考えられている。一方、ウィルスに対しても、インフルエンザウィルス、新型コロナウィルスに代表されるエンベロープウィルスに関しては、エンベロープ(細胞膜)の破壊、膜タンパク質の変性により不活化させることが可能である。一方、エンベロープ(細胞膜)を持たず、カプシドが最も外側に位置するノンエンベロープウィルスには無効である。

3.2 フェノール系剤

フェノール系剤には、フェノール(石炭酸)、4-イソプロピル-3-メチルフェノール(イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、ビオゾール)、2-イソプロピル-5-メチルフェノール (チモール)などが挙げられる。これらの中で、イソプロピルメチルフェノール(IPMP、ビオゾール)は、細菌、酵母などへの広い抗菌活性(抗菌スペクトル)を有し、かつ急性経口毒性が低いなど安全性が高いため、医薬品や医薬部外品の殺菌剤、化粧品の防腐剤などに広く使用されている。フェノール系剤の中で、イソプロピルメチルフェノール(IPMP、ビオゾール)の抗菌効果は、細胞膜の破壊、蛋白質の変性、酵素活性阻害と考えられている。ウィルスに対する効果については、IPMPが水に不溶であるためか、現段階では実証されていないが、シソ科の植物であるタイムから抽出される2-イソプロピ-5-メチルフェノール (チモール)では、抗ウィルス活性を有することが報告されている3)

3.3 ピリジン系剤

ピリジン系化合物の中で、抗菌性、抗カビ性を有するジンクピリチオン、ナトリウムピリチオンなどが代表例として挙げられる。この中で、ジンクピリチオンは、ピリジン系誘導体の亜鉛錯体であり、シャンプーや化粧品のフケやかゆみに効く殺菌剤、また繊維の抗菌防臭加工、抗カビ加工、船底塗料、接着剤の防カビ剤など広く使用され、幅広いスペクトルを有する抗菌成分である。ジンクピリチオンの抗菌・抗カビ活性作用機作は、ピリチオン骨格のキレート性が効果発現要因の一つと考えられている。具体的には、膜破壊、ATP(アデノシン三リン酸)合成に利用されるプロトン(H+)ポンプの膜輸送阻害(プロトン勾配による電気化学ポテンシャル差Δμ)、呼吸系酵素または脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群であるリパーゼに対する合成阻害あるいは活性阻害などと推察されている。このように、抗菌・抗カビ活性を示す作用点が多岐に渡ることが、多種な菌・真菌(カビ)へ効力を発揮する要因と考えられる4-6)。

3.4 塩素系剤

塩素系殺菌剤で最も一般的に使用されているのは、次亜塩素酸ナトリウムである。水溶液はアルカリ性を示し、酸化作用、漂白作用、殺菌作用があるため、医療現場や食品製造施設の殺菌、飲料水やプールの水に添加されたり、水回りの殺菌・漂白剤などに広く使用されている。次亜塩素酸ナトリウムの抗菌・抗ウィルス作用機作は、その酸化力による細胞膜の破壊、蛋白質の変性、DNA損傷などが提唱されている。次亜塩素酸の構造式HClOからも容易に見て取れるが、Clの酸化数は+1であり、強力な酸化剤(求電子性)により、膜破壊、タンパク質変性等を誘引していると推察される7)

3.5 カチオン系剤

代表的なカチオン系剤は、ポリヘキサメチレンビグアナイド、第4級アンモニウム塩系化合物である、アルキルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、ジメチルジデシルアンモニウムクロライドなどが例示される。塩化ベンザルコニウムは、日本薬局方、医薬部外品原料規格の収載されており、医薬品・医薬部外品として、手指・皮膚の消毒用殺菌剤として広く使用されている。一方、ジメチルジデシルアンモニウムクロライド(通称DDAC)は、木材防腐、繊維用抗菌・抗ウィルス加工などに使用されている。カチオン系剤の抗菌・抗ウィルス作用機作は、カチオン性(陽電荷)および分子構造に由来する疎水・親水相互作用などの効果により、細胞膜破壊、タンパク質変性を引き起こすと考えられている8)

3.6 ポリフェノール系剤

ポリフェノール系剤は、緑茶に含まれるカテキン類であるエピガロカテキンガレート、植物の葉や実、手指に含まれるタンニンなど、多数のフェノール性水酸基を持つ複雑な芳香族化合物である。これらの化合物の抗菌・抗ウィルスメカニズムは、多くのフェノール性水酸基を有しているため、タンパク質への吸着による変性に由来すると推定されている。因みに、基礎研究例として、エピガロカテキンガレートに脂肪酸エステルを付加した化合物群において、抗ウィルス活性が実証されている9)

3.7 金属系剤

金属を有効成分とする剤として、ガラスやゼオライトなどの無機担体にAg、Cuなどを担持させたもの、あるいは金属化合物をナノ粒子化したヨウ化銅(CuI)などが挙げられる。これらの用途は、食品用シートなどのキッチン用品、サニタリー、トイレタリー、化粧品の防腐剤、繊維製品などである。抗菌・抗ウィルスメカニズムについて、銀を例に挙げると、基本的にイオン化された状態(Ag+)が活性を持つと考えられている。Ag+イオンは、細胞膜や膜タンパク質に結合し、タンパク質変性・機能阻害を与える。さらに、細胞内に取り込まれ、呼吸系酵素の阻害を介して、活性酸素種(フリーラジカル:ヒドロキシラジカルなど)が発生し、タンパク質等の変性を促すと推察されている10)11)。銅などの他の金属種においても、そのメカニズムは同様と考えられている。

3.8 酸化物系剤

酸化物系剤として、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。酸化チタン(TiO2)の結晶系には、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、光触媒活性を有するのはアナターゼ型であり、本田ー藤嶋効果としてよく知られた現象である。その用途は幅広く、繊維製品、キッチン用品、トイレタリー、住宅用壁材(タイル、内壁、外壁)、交通機関の窓ガラスなどに使用されている。抗菌・抗ウィルスメカニズムについて、酸化チタン(TiO2)を例に挙げる。酸化チタン(TiO2)は、光励起により伝導帯に電子(e-)、価電子帯に正孔(h+)がそれぞれ励起・電荷分離後、電子(e-)は酸素と反応しスーパーオキシドイオン(O2-)、正孔(h+)は水と反応しヒドロキシラジカル(・OH)が生成される。これらのラジカルが、細胞膜、タンパク質などと反応・分解させることで菌・ウィルスを不活化すると考えられている。

表2.主な抗菌・抗ウィルス剤の種類と作用機作(推定)

大分類 小分類 具体例 対象 作用機作
有機系 アルコール系剤 エタノール
イソプロパノール
細菌 溶解浸透 細胞膜破壊、タンパク質変性、溶菌
ウィルス エンベロープ(細胞膜)破壊、タンパク質変性
フェノール系剤 フェノール
イソプロピルメチルフェノール
細菌 溶解浸透反応 タンパク質変性、細胞膜破壊、酵素活性阻害
ウィルス
ピリジン系剤 ジンクピリチオン
ナトリウムピリチオン
細菌 キレート 膜破壊、膜輸送阻害(H+)、酵素合成阻害(ATP)
ウィルス
塩素系剤 次亜塩素酸ナトリウム 細菌 酸化 細胞膜破壊、タンパク質変性(SH基の分解)、DNA損傷
ウィルス 細胞膜破壊、タンパク質変性(SH基の分解)、DNA損傷
カチオン系剤 アルキルベンジルアンモニウムクロライド
ジメチルジデシルアンモニウムクロライド
ポリヘキサメチレンビグアナイド
細菌 静電相互作用
溶解浸透
細胞膜破壊、タンパク質変性
ウィルス 細胞膜破壊、タンパク質変性
ポリフェノール系剤 エピガロカテキンガレート
タンニン
細菌 吸着 タンパク質への吸着
ウィルス タンパク質への吸着
無機系 金属 Ag
CuI
細菌 静電相互作用(ラジカル) タンパク質変性、酵素活性阻害
ウィルス タンパク質変性
  酸化物 TiO2
ZnO
細菌 光触媒活性 酸化分解(光触媒)
ウィルス 酸化分解(光触媒)

4.参考文献

(1)土戸哲明ら  微生物制御 科学と工学, 講談社サイエンティフィック(2002)
(2)髙麗寛紀ら  最新の抗菌・防臭・空気質制御技術, テクノシステム(2019)
(3)Li. Ma et. al. Molecules 25(11), 2567(2020)
(4)A. J. Dinning et. al. Letters in Applied Microbiology 27, 1(1998)
(5)A. J. Dinning et. al. Journal of Applied Microbiology 85, 132(1998)
(6)A. J. Dinning et. al. Journal of Applied Microbiology 85, 141(1998)
(7)福崎智司  調理食品と技術, 16(1), 1(2010)
(8)G. Mcdonnell et al. Clinical Microbiology Revies 12(1), 147(1999)
(9)K. Kaihatsu et. al. Molecules 23, 2475(2018)
(10)高麗寛紀ら 殺菌・抗菌の基礎知識, オーム社出版局(2000)
(11)松村吉信  化学と教育, 53(5), 288(2005)
(12)石田恒雄  マテリアルライフ学会誌, 23(1), 21(2011)

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